2017年05月03日

苔むし朽ちかけた樹

樹

苔むした樹があります。道路のわきの切り立った土手にしがみつくように斜めに生えています。ちょうどこのくらいの危うい角度のまま、ずっとそこにあります。いつからそこにあるのかは知りませんが、今でもそこにあります。昔のままの姿で。

たまにその樹の横を通り過ぎると、昔の光景を思い出します。もう三十年以上も前のことですが、この樹の姿はあの時と全く変わっていません。

小学生のころのある日、学校の帰り道にそこを通りかかると、その樹に寄りかかるようにしてしがみつき、上の方に手を伸ばして「うーん、うーん」と唸り声をあげている同級生の友人の姿がありました。

写真の中央付近の細い方の樹の幹には表皮のあちこちにぼこぼことくぼみがあります。その窪みの一つに小石か何かが乗っかっていました。友人はそこに手を伸ばして唸っているのです。いかにもその小石を取りたくて必死になっているのだと訴えているかのようでした。

いたずら好きのその友人がまたふざけているだけだということはすぐにわかるのですが、下手な演技のパフォーマンスに釣られて近づいてゆくと、友人は小石を取りたいのだがどうしても手が届かない、代わりに取ってくれと言います。

そんなの簡単だとばかりにまんまと乗せられて樹にしがみつき小石に手を伸ばそうとすると、友人は後ろから私を突き飛ばし、切り立った土手の下に落とそうとしたのでした。

友人の悪質ないたずらだったんですけどね。怪我をしてもおかしくないくらいの、ちょっと危ない遊びでした。子供のころはそんなことばかりやってましたよ。

この樹を見ると、今でもそこにしがみついて唸り声をあげている友人の姿が見えます。

その友人は二十代の若さで死んでしまって、今はもうこの世にはいないのですけどね。苔むし朽ちかけた樹だけは今でもまだそこで生きています。

追記(二〇一七年九月九日)

その樹が切り倒されたことを知りました。無念です。

無残な切り株」(裏ポロ)


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posted by アポロ at 18:15 | Comment(0) | TrackBack(0) | 漫録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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