2012年12月10日

流し台に巣をはる蜘蛛

蜘蛛の巣

 流し台の水道の蛇口の脇に小さな蜘蛛が巣を張っていました。痩せ細っていて肉眼でやっとその姿を確認できるほど小さな蜘蛛です。

 普通の家庭ならば家の中で蜘蛛の巣を見かければ即座に払い取ってお掃除してしまうのかもしれませんが、うちでは蜘蛛の巣はそのままにしておきます。

 蜘蛛は益虫なので、家の中の害虫を食べてくれます。また、一人身の私にとっては良い話し相手になってくれたりもするのです。

 ただ、部屋の隅に目立たぬようにこっそり巣を作っているくらいなら良いのですが、水道の蛇口の脇に作られると、ちょっと目についてしまいます。蜘蛛の方も人間の姿を間近で見ても全く物怖じしない様子。

 私はそこで洗い物をしたり、顔を洗ったりするのですが、そのたびに水しぶきが飛び散り、巣にダメージを与えているのではないかと気になって仕方がありません。

「そこに巣を作ると水が飛ぶから他所へ移動した方がいいよ。」
「こんなところに巣を作っても獲物は来ないよ。」

 流し台で顔を洗うたびに、そんな風に蜘蛛に話しかけたりしていました。

 それでも蜘蛛はいつまでたってもその場所を動こうとしませんでした。私も、できるだけ巣に水が飛ばないように気を付けながら顔を洗ったり食器を洗ったりしていました。

 もう何日も蜘蛛は流し台の巣に居座ったままだったのですが、巣にかかった餌を捕らえて食事をしている姿は見かけたことはありませんでした。小さな蜘蛛ですから餌になるのもさらに小さいダニか何かで私には見えなかっただけかもしれませんが、ついにある日、巨大な獲物を捕らえたようでした。

 蜘蛛は何と、自分の体の何倍も大きなハサミムシを捕らえていたのです。こんな場所でいったいどんな獲物がかかるのかと疑問に思っていたのですが、これには私もさすがにびっくりしました。いやはやさすが、私の警告を無視してこの場所に居座り続けただけのことはあります。蜘蛛のハンター魂には脱帽でした。

 驚いたのはそれだけではありません。餌を捕らえてたっぷりと栄養を吸収したせいで、蜘蛛の体が一日か二日くらいで一気に数倍に膨れ上がっていたのです。お腹が膨れたというよりも、明らかに成長していました。痩せ細った貧弱な蜘蛛だったのが、わずか数日で太くたくましい姿に変わってしまったのです。確かにとらえたハサミムシは蜘蛛の大きさに比べれば巨大でしたから、たっぷりと栄養があったのでしょうが、それにしても驚きの成長の速さです。虫の世界の神秘ですね。

 それまで気づかなかったのですが、同じ巣にもう一匹の蜘蛛がいるようでした。巨大なエサのおすそ分けをもらいに来たのか、それとも、もともと一緒に暮らしていた兄弟か、あるいは夫婦なのか。仲がいいのか悪いのかもわかりませんでしたが、しばらくは一緒にそこにいたようです。

 さて、それから栄養分をすっかり吸い取られたハサミムシはどうなるのかと、しばらく様子を見ていたのですが、気が付くとある日、ハサミムシのむくろが流し台の上に落ちていました。蜘蛛の巣は残されていましたが、蜘蛛は二匹とも姿を消していました。

「そうか、行ってしまったか。」

 なんとなく、言葉が通じたのかな。気持ちが通じたのかなと、そんな気がしました。彼らは今も、私の家の中のどこかに巣を作っていることでしょう。


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タグ:蜘蛛
posted by アポロ at 23:51 | Comment(2) | TrackBack(0) | 漫録2012年 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
感動しました、ちいさな名作
Posted by yuki at 2012年12月11日 05:07
yuki さん、コメントありがとうございます。
一言いただけてうれしいです。
Posted by アポロ at 2012年12月11日 14:12
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